疑似家族@映画「ブラック・ウィドウ」

みなさんこんにちは。おかむらです。

毎日暑いですね…暑い。冗談ではなく死を予感させる暑さです。コロナ禍も手伝い、自ずと休日は閉居して過ごすことになるわけですが、外は夏らしい突き抜けた晴天、籠ってばかりいるのもまたストレス…というわけで、先日フラフラと外出し、現在上映中の「ブラック・ウィドウ」という映画を観てきました。

「ブラック・ウィドウ」は、アメリカのMCU(マーベルシネマティックユニバース)という映画会社が提供する「アベンジャーズ」シリーズのスピンオフ(番外編)作品です。「アベンジャーズ」というのは、ヒーローが集まって結成したチームのことで「アイアンマン」「キャプテンアメリカ」などといったヒーローの名前はみなさんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。今回の主人公「ブラック・ウィドウ」は、そこに登場する女性ヒロインの名前です。この「アベンジャーズ」シリーズは、楽しくもなかなか深い作品が多いのですが、今回の「ブラック・ウィドウ」もその例に漏れず、いろいろと考えさせられるところの多い1本でした。

そのなかでも今回は、「疑似家族」というテーマにフォーカスしてみようと思います。

血縁関係のない人たちが集まって、ひとつの家族のようになることを「疑似家族」っていいますよね。少し前の作品になりますが、是枝裕和監督がカンヌ映画祭でグランプリを取った映画「万引き家族」も「疑似家族」モノのジャンルの作品といってよいでしょう。

考えてみれば自分の生まれ落ちた「家族」って、性別や外見と並んで、自分では選ぶことのできない最たるものですよね。そこに生まれてきた以上、まずはその現実を受け入れて生きていかなければならないわけですが、この「ブラック・ウィドウ」という作品は、血縁でつながっている家族だけではなく、「家族」にもいろいろな、さまざまな形や可能性があっていいんじゃないの?その可能性って、生きていく上では結構大事なんじゃない?と問いかけられるような作品でした。

ネタバレを避けるために、ストーリーにはできるだけ触れないようにしますが、この映画は「ブラック・ウィドウ」ことナターシャ(スカーレット・ヨハンソン)が、幼少時に組織(KGB)の殺人マシーンになるべく、実の親からさらわれて、想像を絶するような過酷な体験を経たあと、13歳で家族全員がスパイである「疑似家族」の一員として、アメリカで生活するところから始まります。大人になりアベンジャーズの一員になったナターシャが、その組織と対峙するなかで、かつての「偽物の家族」と再び出会い、葛藤や怒り、戦いや和解などを繰り返しながら、本当は家族としての関係を少しずつ築いていくプロセスが、ホームコメディタッチでダイナミックに描かれていきます。

この映画で注目すべきは、そもそも家族というものは、最初から完成されているわけではなく、「みんなが努力して、時間をかけて創っていくものである」ということが、明確に描かれている点にあるように思います。家族の構成員はそれぞれ完璧な人間ではありませんし、みんなどこか欠けたところ、ダメなところがあるのもリアルです。主人公のナターシャは、元は他人である両親や妹と何度もぶつかりながら(文字通り取っ組み合いのケンカをしながら)そのなかで人のあたたかさや人間性に触れ、次第に「家族」への理解を深め、自分自身も成長していきます

この「家族を築くための頑張り」という描写は、寄せ集めの「疑似家族」を通して、あらゆる「家族を作っていくプロセス」を描いているのではないでしょうか。最初から「出来上がった(完璧な)家族」というものはむしろ幻想で、それは「家族としての関係を築く可能性」は、どこからでも開かれていることを逆説的に示唆しているようにも思えます。

もしも血でつながった家族にそのような努力がとても望めない場合にも(恐らくは強くそのくびきに囚われつつも)毎日を生きるなかで、きっと自分自身が「これだ!」と思う「父」「母」あるいは「兄弟姉妹」に巡り合うことがあるのではないでしょうか。それはきっと、実際に身近に存在する「誰か」だったり、古今東西歴史上の人物やあらゆる書籍、また自然、芸術といったものであったりするのでしょう。

そのような対象との関係を心のなかで大事に育てていく、そのことが、いずれいろいろな形で自分を認めてくれたり、包んでくれたりする、自分のなかの「新しい家族」を生み出すことにつながるかもしれませんね。そんな風に捉えると、我々の仕事(カウンセリング)においても小さな希望が見えてくるように感じます。

「アメリカンパイ」という楽曲をはじめ、音楽もとても効果的に使われています。加えてスパイ映画007オマージュ満載、楽しみながら気軽に観れることができる作品でした。まだまだ酷暑は続く模様です。Disney+(ディズニープラス)による配信でも観ることできますが、ぜひ冷え冷えの映画館で!

Black Widow
2021年製作/134分/アメリカ

配給:ディズニー

監督:ケイト・ショートランド